身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~


***


椿と別れる気などさらさらない。

椿はまだ二十五歳。夢をあきらめて家庭に入るにはまだ早すぎる年齢だ。

独身だからこそ自由に立ち回れることもある。

とくに椿のように義理堅い人間は、結婚すれば生活の中心が家庭になってしまうだろう。京蕗家の嫁なのだからと気負うに決まっている。

椿を縛り付けたくない。学生だった頃のように自由に夢を追いかけ輝いていてほしい――その一心で椿に結婚の延期を持ちかけた。

結婚や出産は、後でもかまわない。仁は何年でも待つつもりでいた。

もしも椿が夢に生きていたい、結婚などしたくないというのなら、それこそ身を引くことも覚悟していたのだが。

――『仁さんは心のままに、愛する人と一緒になって』――

意味深な台詞に本能がまずいと告げる。椿はなにか、盛大な勘違いをしてはいないだろうか。

そう気づいたときにはすでに遅く、彼女を載せたタクシーは走り出していた。

「待て、椿!」

車が止まることはなく、通りの奥へ消えていく。かろうじて車のライトが大通りを右折するのが見えた。椿の実家はそちらの方面ではないだろうに。

「なにを考えている……?」

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