身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
みなせ屋の次期女将である菖蒲をサポートしたいと椿は思っていた。菖蒲はこれから子どもを産み育てたり、仁とともに社交界に出たりと忙しいだろうから。

――本当は、着物のデザインもやってみたいのだけれど……。

しかし、呉服屋とデザイナーは生業が違う。

呉服屋の仕事は、良質な反物を仕入れ、客のニーズにあった着物を提案すること。

今、椿が学んでいる〝作る〟という工程は、今後知識として役に立つことはあっても、実践で役に立つことはない。

「バカな子ね。うちは呉服屋なんだから、染めなんて学んだって仕方ないのに」

大学の経営学科を卒業した菖蒲は呆れたように言う。

「……そんなことに時間を費やすなら、経営を学んだ方がまだマシだわ」

着物の知識は実務で覚えればいい、呉服屋の跡取りとして必要なのは経営だ、そう考えているのだろう。

しかし、仁は「そうだろうか」と顎に手を添え、意外にも椿を庇った。

「知識を深めるのは悪いことではない。それに、流通経路はもうあるのだからオリジナルの意匠を出してみるのも手かもしれない」

椿が作った着物を店で売り出せばいいということだろう。投資家としての血が騒いだのか、新たなビジネスプランを提案する。
< 20 / 258 >

この作品をシェア

pagetop