身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
嫌な予感がして椿に電話をかけるも繋がらず、三度めのリダイヤルで圏外になった。電源を落としたのだろう。

――まさか、自暴自棄になってはいないだろうな?

金を受け取ったからにはなにかしら考えがあるのだろうが、どうにも胸が騒いで落ち着かず、仁は椿の実家に連絡をした。

「京蕗です、夜分遅く申し訳ありません。椿さんが帰宅したら、私にかけ直すよう伝えていただけますか?」

電話を取ったのは椿の母だ。どうやら家を出ていたこと自体に気づいていなかったようで、『はぁ、わかりました』と気のない返事をする。

電話を切ろうとした瞬間、受話口の奥で『お母さん、こんな時間に誰から?』『ああ、京蕗さんがね』と会話する声が聞こえてきた。

どうやら菖蒲が割って入ってきたようで『お電話代わりました』と軽快な声で通話に出る。

「菖蒲。椿になにを言った?」

声を低くして尋ねると、開口一番に疑われたことがおかしかったらしく、菖蒲は『突然なに?』と言ってクスクスと笑い出した。

「椿が思いつめた様子だった」

『さぁ。思い詰めるようなことは言ってないわよ。少し煽るくらいはしたけれど』

「なにを吹き込んだ?」

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