身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
声を鋭くすると、菖蒲は『なぁに? 喧嘩でもしたの?』と揚々と声を弾ませた。

『今までご苦労様って言っただけ。お姉ちゃんが帰ってきたからもう大丈夫よって。優しい姉でしょう?』

彼女の性格からして、おそらくそれだけではないのだろう。仁は「チッ」と舌打ちし、通話を切る。

仁は椿本人、もしくは椿の実家から連絡が来るのを待っていたが、二時間以上が経過して日付が変わる頃、ようやく椿の実家から電話が来た。

椿の母親からだ。明らかになにかがあったらしく、先ほどとは違って声が震えている。

『京蕗さん……椿があまりにも遅いので、不審に思って椿の部屋に入ってみたんです。そしたら、引き出しに気になるものが入っていて……』

困惑する椿の母親を急かすように「気になるものとは?」と先を促す。

母親は躊躇いながらも「実は……」と切り出した。

『……写真です。白黒の、病院からもらうエコーのような写真……。もしかしたら椿は、妊娠しているのかもしれません……』

仁は携帯端末を持ったまま凍り付く。

――『妊娠は、私の早とちりだったみたいで』――

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