身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「……はっきりとは。ですが、少し、心当たりがあります」

仁は玄関の奥に目線をやり、腕を組んで佇む菖蒲に「少し話せるか?」と声をかけた。

菖蒲が神経質そうに片眉を吊り上げる。

「……ええ」

あきらかに嫌そうな顔をしているが、状況が状況なだけに断ることができないのだろう。

あるいは、一応姉としての責任を感じているのか。椿を焚きつけたのは十中八九菖蒲だ。

菖蒲は下駄をつっかけて仁のもとまでやってくると、母親に「居間で待っていて」と指示して玄関の扉を閉めた。

「菖蒲。椿になにを吹き込んだ」

菖蒲は気まずそうな顔でぷいっと視線を逸らす。

「なんのこと?」

「俺が菖蒲と結婚したがっている――そんなようなことを言ったんじゃないのか?」

静かに、だが恐ろしいほど冷ややかに問い詰める仁に、菖蒲は観念したのか嫌みったらしい息をついた。

「……言ったわよ。だって、本当に妊娠しているだなんて思わないじゃない。だいたい、あなたもあなたでしょ、私のときは結婚するまでしないとか紳士ぶって手も出さなかったくせに、どうして椿とはあっさりヤッちゃうのよ!」

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