身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
椿を追い詰めた自覚もあるようだが、少なからずプライドが傷ついたのだろう、菖蒲が仁にかみつく。

「しかも避妊しないとか、あなたバカじゃないの!?」

「妊娠しても後悔しない、そう思ってのことだった」

暗に菖蒲には妊娠してほしくなかったと言われたことに、菖蒲はムキになって仁の胸元に掴みかかってきた。

「どうしてよ!? 私の方がなにもかも椿より優れてるじゃない! どうしてあんな子を選ぶのよ!」

理屈ではない。仁はそう感じたが、菖蒲が納得するだけの理由が必要だろうと言葉を選ぶ。

京蕗家の嫁としては菖蒲が相応しかったのかもしれない。だが、仁がそばにいてほしいと思った女性は違った。

「俺と君は似ている。だから嫌だったんだ。俺にないものを持っている女性を求めていた」

菖蒲は完璧な女性だ。だが、仁が愛したのは完璧には程遠く、それゆえ淡い光を内に蓄える原石のような女性だった。

まだ形もはっきりしない、何色に、どう輝くかも判然としない石だが、その笑顔と前向きさからは確かに可能性を感じた。

「椿には、俺や君が持ちえない熱量があるだろう。俺はそれに惹かれた」

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