身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
ずっと椿を傍で見ていた実の姉だ、その言葉だけで充分伝わったのだろう。菖蒲は仁の胸元を掴む腕を解く。

「菖蒲。椿の行く先に心当たりは?」

「全っ然ない。あのバカの考えることなんて理解できないわ」

姿をくらました自分のことを棚に上げて、と言いかけた仁だが、ここで口論していても始まらない。

菖蒲は苛立ちを隠そうともしないが、わずかに冷静になったのか「……まぁ、あの子のことだから――」と真面目に切り出した。

「……勝手に子どもを堕ろすような真似はしない……と思う。堕ろせと言われるくらいなら、隠れて産もうとか考えるんじゃないかしら。お金もろくにないくせに」

腕を組んでぶつぶつと漏らす菖蒲。金という言葉に反応し、仁が呟く。

「金……は、ある」

「……は?」

眉をひそめる菖蒲に、投資という名目で椿に一千万渡したことを説明する。

菖蒲はしばらく呆然としていたが、間を置いて「はぁ!?」と表情を歪めた。

「さっき、自分が私と似ているとか言ってたわね。撤回して。私、そんなバカなことしない」

「俺も、浅はかだったと思っている……」

「浅はかとかそれ以前の問題よ。そんな大金渡されたら、誰だって手切れ金か慰謝料だと思うじゃない」

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