身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
否応なしに現実に引き戻され、押し殺していた重たいため息が漏れた。

子どもを産むのが嫌だというわけではない。

今もお腹の中で育まれる小さな命に確かな愛情を感じている。

ただ、その責任をひとりで負うには重すぎた。

不安から目を背けるように、胸がわくわくする楽しいことに目を向けていたけれど、ふと立ち止まればつらく苦しい現実が待っている。

孤独な逃避行が果たして成功するのか。

いや、成功どうこうの問題ではない。仁に子どものことを打ち明けないと決断したからには、ひとりでやりきらなければならないのだ。

椿はそんなことを思いながら、とりあえずシャワーを浴びようとバスルームに向かう。体を流した後、部屋に備えられていた浴衣に着替え、眠る準備をする。

妊娠のことを否定したのは、仁のためと言いながらも、自分のためだ。

拒まれるのが怖かった。妊娠させなければよかったと思われるのが嫌だった。

子どもができたので父親になってください、そんな押しつけがましいことは言えなかった。……でも、言うべきだったかなと少しだけ後悔もしている。

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