身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「椿が作った素人丸出しの着物なんて置いたら、老舗の名が汚れるわ」

「菖蒲」

あまりにも辛辣な物言いに、仁がやんわりとたしなめる。

だが、菖蒲の言うことが正しいことは、椿も承知していた。

「大丈夫ですよ、仁さん。お姉ちゃんの言う通りなんです。私がやっていることはお遊びみたいなものだから。でも、好きにやらせてもらえて感謝しています」

菖蒲がしっかりしているから、椿は自由に学生生活を送れる。

縁談の話だって椿だったら務まらなかっただろう。仁の隣に並ぶのは、菖蒲でなければ釣り合わない。

仁はわずかに目を細め、控えめに微笑んだ。

同情のような、落胆のような、なんとも言えない笑みだった。

「椿ちゃん。君が染めた布、見せてもらえないか? 興味がある」

椿の表情がパッと明るくなる。

反対に菖蒲の表情は陰り「仁……!」と苛立たしげに咎めた。

「かまわないだろう? 知識を深めるのは大切だ。特に私のような素人が君みたいな呉服屋の女将の夫となるのだから、勉強は必要じゃないか」

仁が自身の唇に人差し指を当て、おどけるように笑う。

恋人を立てたもの言いは見事で、菖蒲は反論のしようもなかった。

「ありがとう仁さん! ぜひ見て!」
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