身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
そう苛立った声をあげると、じゃれつくように椿に頬ずりする。

横を通りかかった宿泊客らしき二人組が、ふたりの熱に当てられ「わぁ」と声をあげた。着物姿の椿と、芸能人級のルックスを持つ仁のラブシーンは目立ち過ぎる。

「あの……仁さん、ちょっと恥ずかしい……」

思わず赤面する椿だが、仁は離してくれない。それどころか、抱く腕に力を込めてより強く椿を抱き込む。

「言わせろ。こっちがどんな思いでここを探し当てたと思ってる」

椿はふと気づく。仁はスマートにこの場所を探り当て、余裕綽々でソファに座って椿を待っていたわけではないことを。

「俺の想いは、なにひとつ椿に伝わっていなかった。愛しているということも、誰かと比べる必要などないほどに椿が魅力的だということも」

椿は困惑しながら、ぽつぽつと独白を続ける仁を見守る。

思えば、仁が苦悩する姿を見るのは初めてではないだろうか。

「椿はすぐ菖蒲と比べたがるな。菖蒲は確かに綺麗だし、賢い女性だと思う。だが、俺の目には椿が誰より美しく、気高く映っている」

あまりにも大袈裟な誉め言葉を仁はいくつも口にする。

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