身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
いまだ半信半疑の椿だが、苦しむ仁の姿はとても演技には見えず、そうさせているのが自分の疑い深さであることもよくわかった。

「まだ信じられないって顔をしているな。俺を信じることが怖いか? 俺が君を弄んで捨てるような男に見えている?」

「そんなんじゃ……!」

仁が誠実であることは椿もよく知っている。

ではなぜこんなにも仁の言葉を疑っているのかといえば、自身に対する劣等感。そしてその奥にあるものは、仁に捨てられたくないという恐怖だろう。

ようやく椿は、自分に勇気がなかっただけなのだと気づく。

「俺の愛を疑おうとするな。信じろと言っただろ」

夕べからさんざん葛藤を続けて、ようやく気づいたことがある。

目の前にある幸せを自らの手で逃したくない。愛する人に堂々と愛していると言える人間でありたい。

「私も。仁さんのことを愛してる。ずっと隣にいたい」

仁の背中に手を回し精一杯気持ちを伝えると、仁も椿を包み込みその言葉に答えてくれた。

「結婚しよう。ずっと俺の隣にいてくれ」

その言葉が偽りかもしれないだなんて、もう二度と疑うまいと心に刻む。

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