身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
当然父に異論などなく、光栄といわんばかりに低頭した。

「こちらこそ京蕗さんに椿をもらっていただけること、喜ばしく思っております」

母も父の隣に並び、畳に手をついた。

「椿をどうかよろしくお願い致します」

「椿さんを必ず幸せにします」

両親の目が今度は椿に向く。椿もしっかりと両親を見つめ返し視線に答えた。

「椿、よく体を整え、しっかりと子どもを産みなさい」

「はい」

両親たちの同意がとれ、『娘さんをください』の儀式はあっさりと幕を閉じた――かに思われたのだが。

「私は異議を言わせてもらいます」

そう言って居間に姿を現したのは菖蒲だった。

彼女らしい藤色と生成色がグラデーションになった着物を着ており、髪はきちんと上に結いあげられている。

店に出るときとなんら変わらない格好で、品よく母の隣に回り込み正座をした。

「椿はまだ二十五歳です。私の身代わりになって政略結婚を押しつけられ、挙句妊娠させられた。あまりにもかわいそうだわ」

椿はそんなことはないと言おうとしたが、それよりも先に父が「菖蒲」と叱責した。

「自分のことを棚に上げてなにを言っとる。誰のせいでこうなったと思っているんだ」

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