身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「その言葉、そっくりそのままお返しします。自分の経営が立ち行かなくなったのを、娘ふたりを売ることで解決しようとしたお父さんがすべての元凶です」

「菖蒲!」

もともと口論の多いふたりではあったけれど、菖蒲がここまで辛辣なことを口にしたのは初めてだった。

母は困惑しながら「ふたりとも落ち着いて。京蕗さんの前ですよ」と間に入る。

「京蕗さんの援助で赤字を補填しているのが現状にもかかわらず、お父さんは経営方針をまったく変えようとしない。これを商いとは呼ばないわ。京蕗家から施しを受けているだけよ」

父が激昂するのは目に見えていた。案の定、父が鬼のような形相に変わる。

「お前が経営のなにを知っとる! 今は不景気だから落ち込んでいるが、長い目で見ればやがて――」

「不景気なんかじゃない、この景気がずっと続いていくの! いつまでバブルを引きずるつもり?」

菖蒲は厳しく言い放ったあと、椿に目を向ける。

「椿、あんたが生贄になって嫁ぐ必要なんてない。みなせ屋は直に潰れるんだから」

「菖蒲!」

興奮した父が立ち上がり、菖蒲に向かって手を振り下ろそうとする。

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