身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
それを制したのは仁の「やめてください!」という鋭いひと言だった。

「援助している側の立場から言わせてもらいます。菖蒲さんの言い分はもっともです。五年経っても経営が上向かない、この現状を見過ごすことはできません。なんらかの改善策は提示していただきたい。ですが――」

父を黙らせた仁だったが、今度は厳しい目を菖蒲に向ける。

「水無瀬社長は何十年とこの店を切り盛りしてきた。職人の方々と信頼関係を築いてきたのはすべてお父様でしょう。もう少し敬意を持った接し方をすべきでは」

菖蒲はムッと顔を歪めたが、一理あると踏んだのか、視線を外しぶっきらぼうに答えた。

「……お見苦しいところをお見せしました」

仁は菖蒲を一瞥した後、あらたまって父に向き直る。

「水無瀬社長にも譲れないやり方があるのだと思います。既存の顧客を尊重するのは大事なことです。ですが、もうそれだけでは伝統工芸は立ち行かない時代になってきている。どの職人も問屋もみなプライドを捨て、身を切る思いで変革を起こしています」

仁が伝統工芸を守るための活動や投資をしていることを父もよく知っている。

そう言われることをまったく予期していなかったわけではないらしく、ぐっと喉を鳴らし沈鬱な表情で受け止めた。

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