身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「今後、社長にはふたりのバックアップに回っていただきたい。若い子たちに花を持たせてやってはくれませんか」

穏やかな言い回しではあるが、経営の主導権を娘たちに渡せと言うのだから、引退しろと言われたも同然だった。

父は顔を上げ唇を引き結ぶ。思うところはあるのだろうがぐっと呑み込み「善処致します」と承諾した。

椿はいまだ不満そうな顔をする菖蒲に「お姉ちゃん」と声をかける。

「生贄のつもりで仁さんと結婚するんじゃない。私は純粋に仁さんと結婚したいと思ったの」

椿は帯の下にあるお腹にそっと手を当てる。自分にも、その中に育まれている命にも聞かせるように力強く伝える。

「仁さんの子どもがほしいって、私が心から願ったの」

菖蒲は冷ややかな目を椿に向けたが、椿の顔がいつになく真剣であることに気づいたのか、あきらめたように肩を落とした。

「……それなら、私がこれ以上言うことはありません」

そう言って菖蒲は立ち上がり、無表情のまま居間を出ていく。

「お父様とお母様も――」

仁が再び深く頭を下げて向き直った。仁が〝水無瀬社長〟ではなく〝お父様〟と口にしたことに両親はあらたまる。

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