身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
姉のお小言を聞くのは久しぶりで、椿はほんの少し嬉しくなった。

しっかりものの菖蒲はいつもこうして椿を叱ってくれる。菖蒲に叱られると、自分を見ていてくれる人がいるのだと実感して安心感が湧く。

そうこうしている間に、やかんが沸騰してピーッと音を立てた。

「待ってなさい、今、麦茶作ってるから」

そう言って菖蒲が携帯端末をダイニングテーブルに置いて立ち上がる。

調理台に用意されていた缶を開けると、ころころとした丸い粒がぎっしり詰まっていた。麦茶の粒だ。

菖蒲は粒をパックに包むと、やかんの蓋を開けて中に落とし、弱火で煮出した。

「麦茶、作ってくれてたの?」

麦茶はノンカフェイン。椿でも飲める。

菖蒲は普段、緑茶や烏龍茶、コーヒーが多く、麦茶を飲んでいるところは見たことがないから、作るとしたら椿のためだろう。

椿がぽかんとしている間に、菖蒲は湯呑みや麦茶を移し替えるための容器をテキパキと用意していく。

「……嘘、ついて悪かったわね」

菖蒲がぼそりと口にした。どうやら麦茶は謝罪のつもりらしい。

形にしてきちんと返すところは菖蒲らしいなと椿は苦笑した。

「……そういえば、お姉ちゃんは家を出ている間どこにいたの? 働いたりとかしてた?」

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