身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
姿を消そうとして仁に計画性のなさを指摘された椿は、菖蒲の場合はどうしたのかが純粋に気になっていた。

「働いてなかったわよ。金持ちの男のもとに転がり込んでた」

あっけらかんと答えた菖蒲に、椿は目を見開く。

「やっぱり駆け落ちじゃない!」

「違うわよ。本気じゃないもの。向こうも面白がって家に置いてくれてただけ」

異次元の主張に椿は返す言葉もない。美人は交友関係も想像以上だなと、変な納得の仕方をした。

「でも飽きたみたいで追い出されたから帰ってきたの。まぁ、私もそろそろ帰るつもりだったし。店のことも気になってたから」

菖蒲が店を大事に思っていることは椿も知っている。

本人も呉服屋の女将は天職だと言っていたし、だからこそ菖蒲が出ていってしまったときは、すべてを投げ出しても一緒になりたい人がいたのだと感服したものだが。

「駆け落ちじゃないなら、どうして家を出たの? 本当に私たちへの嫌がらせのためだけに?」

尋ねると、菖蒲はやかんの火を止め、湯呑みに麦茶を注ぎながら答えた。

「結婚する前に一度、自由になってみたかったのよ。あんたみたいに」

私?と椿は目を丸くする。

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