身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
椿はカァッと顔が熱くなった。そんなにわかりやすく態度に出ていたのだろうか。

つまり、仁から見てもバレバレだったということだ。今さらながらとんでもなく恥ずかしくなり、椿は人知れず見悶える。

「でもね。仁もあの頃からあんたのこと気に入ってた。だから……まぁ……あんたたちはお似合いよ」

言いにくそうに告げて、菖蒲はキッチンを出ていった。階段の方から「麦茶、後でやっとくからあんたは寝ていいわよ」と声をかけられる。

「ありがとう!」

そう答え、椿はダイニングテーブルに座り残りの麦茶をゆっくりと飲んだ。

仁から『隣の芝生は青く見える』と言われたことを思い出す。

――『君たち姉妹は典型的なそれだと思うが?』――

完璧で何不自由なく見えていた姉が、未熟で足りないものばかりの妹を羨ましいと言った。

なにが優れていてなにが劣っているのだろう。それすら人によって定義が異なるのならば、劣等感など抱くだけ無意味だ。

――『君は君でいい』――

花紅柳緑。ありのままが一番美しい。

随分と前に仁に言われた言葉だが、その本質を理解できたのは今になってからだった。


< 230 / 258 >

この作品をシェア

pagetop