身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
運転席に座った仁が、シートベルトを締める前にキスをくれる。

さりげなく唇を避けたのは、桃色のリップが落ちてはいけないという気遣いだろう。

「ありがとうございます。そう言ってもらえると安心します」

いつの間にか緊張していたことに気づき、椿はふうっと大きく息を吐いた。

「不安にならなくていい。こんなにかわいらしい嫁が来るんだ、喜ばないはずがない」

本当かしら?と椿は首を傾げる。

前当主――仁の祖父が菖蒲を気に入っているのは知っていたけれど、現当主となった仁の父親が結婚についてどう思っているかはよく知らない。

先日、両家の両親たちが当人抜きで会食をした際には、結婚について異議を唱えるものは誰もいなかったと聞かされたが。

――本当は私のこと、どう思っているのかしら?

もっと家柄のいい令嬢がよかったのではないか、年齢が足りていないのではないかと不安は尽きない。

しかし、そんな心配は杞憂だったようで、いざ京蕗家に着いてみると、仁の両親は椿を快く迎えてくれた。

「挨拶が遅くなってすまないね。本当は妊娠の前に会いたかったんだけれど。計画性のない息子で本当に申し訳ない。しっかり責任は取らせるから」

< 232 / 258 >

この作品をシェア

pagetop