身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
エピローグ
結梅が最初に覚えた言葉は『ママ』『パパ』『まんま』そして『かわいい』だった。
椿と仁が連呼しすぎて覚えてしまったのだろう。なにしろ結梅はかわいい。
「ママ、かあい?」
「うん、かわいいよ」
「パパ、かあい?」
「ああ。とってもかわいい。おひめさまみたいだ」
二歳を待たずして自身を着飾ることに目覚めたおませな結梅は、被布コート付きの着物を着て周囲に見せびらかすようにくるくる回っている。
水色の地に赤い大輪のねじり梅と桜の花々が咲き誇っているかわいいお着物だ。
「ママ、きれえ~」
どうやら『かわいい』だけでなく『きれい』という単語も覚えたようだ、椿の白無垢姿を見て結梅が褒めてくれる。
「ありがとう」
「パパ、かこいい」
今度は紋付き羽織袴姿の仁を見て。いつの間に覚えたのだろうか、どんどん増えていく娘の語彙に、神前式の最中だというのに椿はクスクスと笑ってしまう。
「ありがとう、結梅」
参進の儀、三献の儀と式は進んでいくが、結梅だけはマイペースにその場を楽しんでいた。
ジュースと間違われて盃を飲みたいと駄々をこねられたときだけはさすがに困ってしまったけれど。
あまりの微笑ましさに、咎める者は誰もいない。