身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「祖父は君の姉に世継ぎを産んでもらおうと期待していたんだが。残念だ」

京蕗家当主は持病が悪化し、床に伏せっているという。

孫の結婚と世継ぎの誕生に最後の希望を託していたのだが、最悪の形で裏切ることになってしまった。

「帰って父親に伝えなさい。相応の報復を覚悟するようにと」

「待ってください!」

京蕗家に目をつけられては、信用商売のみなせ屋はもうおしまいである。いや、そもそも援助を差し止められた時点で未来はない。

椿は床に額が着くほど深々と頭を下げ、想定していた最悪のケースへと対応を切り変える。

椿がここに来た理由はもうひとつある。父から託された言葉を思い出し、きゅっと唇をかみしめた。

――『いいか、椿。京蕗さんがどうしても許さないと言うのなら、こう言いなさい』――

「……私が姉の代わりに――」

震えながら記憶の中の父親の言葉を反芻する。

「子どもを産みます」

仁の目元がひくりと引きつる。

椿は、菖蒲と仁が仲睦まじい恋仲であったことを知っている。

菖蒲を心から愛していた仁が、代わりにと妹を差し出されたところで納得するはずがない。仁の怒りを煽るだけだ。

――こんなことを言ったって、許してもらえるわけがない……。
< 6 / 258 >

この作品をシェア

pagetop