身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「むっ、ふむぅ……! 仁さんも食べてくださいよ!」

「じゃあ俺にはてっぺんの栗をくれ」

「自分だけいいやつ……! って、ご自分で召し上がらないんですか!?」

あーんと口を開けて待っている仁に、仕方なくスプーンに栗を載せて口まで運ぶ。

ふたつスプーンがあるのだからそれぞれで食べればいいのに、なぜかお互いの口に押し付け合うかたちになって、傍から見ればさぞかし仲のいいバカップルに見えることだろう。

気恥ずかしいものの、おいしいのでかまわないかと椿は自分に言い聞かせる。

それから一時間かけて、ふたりはずんだの和風パフェを完食した。

店を出たのは十八時。ディナーの行き先を考えるために店に入ったはずなのに、ディナーの話題が出てくることはなかった。

「おやつでお腹がいっぱいになって夕飯が食べられないなんて」

まるで子どものようだと椿は笑ってしまった。

「俺もまさか三十過ぎてこんなデートをするとは思わなかった」

不満そうな言い方だが、表情は楽しそうで椿は安心する。

店の前にはあらかじめ仁が呼び出しておいたハイヤーが止まっていて、ふたりは揃って後部座席に乗り込んだ。

「どこへ行くんですか?」
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