身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
仁は飾り棚から高級そうなワイングラスをふたつ選び取り戻ってくる。

「言っておくが、俺は君の父親を許したわけではない」

「ちゃんと謝罪せず、姉の失踪を隠していたことですか?」

「違う。君を尊重せず、道具のように扱ったことだ」

驚いた椿は「え?」と声を漏らし仁を見上げる。

「以前にも話したな。まさか本気で脱ぐとは思わなかったと」

グラスをテーブルに置き、再びキッチンに向かう仁を椿は目で追いかける。冷蔵庫を覗き込みながら、仁は淡々と口にした。

「あの日、君に冷たく当たったのは、そうすれば泣いて逃げ帰ると思ったからだ。親に命じられ体を差し出すような憐れな女の子を抱く気などサラサラなかった」

あの日、仁の怒りの対象は、姉の不義でも、父親が謝罪にこなかったことでもなく。

――父が私を道具のように扱ったから?

「まったく、姉と妹を挿げ替えるだなんてバカげている」

仁は苛立たしげに眉をひそめながら、木製の大皿にローストビーフやクリームチーズ、ピクルス、クラッカーなどをざっと盛って運んできた。

テーブルに置くと、椿のすぐ隣――体が触れ合うほど近い位置に座り、ワインボトルを手にする。
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