身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「流されて君を抱いた俺も俺で、最低だったと思っている。責任は取るよ」

責任は取る――あくまで義務であり、そこに愛はないと宣言されたような気がして、ズキンと胸が痛んだ。

仁は椿を抱いたことを後悔しているのかもしれない。手を出さなければ、責任を取る必要もなかったのだから。

蒼白になってうつむいていると、頭の上をこつんとノックされた。驚いた椿は目線を上げる。

「勘違いするなよ。君との結婚は納得している。跡取りを産んでもらいたいのは事実だ」

さも結婚を決めたかのように言うので、椿はパチリと目を瞬いた。

「あの、結婚の前に、まずお付き合いって……」

「ああ。アレは君の両親への牽制だ」

椿は「へ」と間抜けな声を漏らす。

「水無瀬社長の提案に素直に乗るのが癪だった。あれには少し、灸を据えてやった方がいい」

「……父がいろいろとすみませんでした」

「いや、それこそ君が謝らないでほしいんだが。まぁ、うちの祖父の『援助が欲しければ嫁をよこせ』という提案も充分に横暴だった」

仁は慣れた手つきで、ポンと景気のいい音を響かせ白ワインを開栓する。それぞれのグラスに注ぐと、片方のグラスを椿の手に握らせた。
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