身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
案の定、仁の目は今まで以上に冷ややかだ。

「そう言えと、父親に命じられたのか?」

「……いえ。水無瀬家の次女として、そうすべきだと思いました」

それがなにを意味するか、わからないほど子どもではない。

愛のない相手に抱かれ、器にされるということ。

その相手がどんなに素敵な男性だったとしても、誰かの代わりに孕まされるなんて容易く受け入れられることではない。

加えて、椿には男性経験がない。

子どもを産むこともその過程も、まったく未知のもの。恐怖は人並以上だ。

「私が、京蕗家の立派な跡取りを産んでみせます」

それでも、菖蒲が姿を消した今、水無瀬家の跡取りとして負うべき責務がある。

「そうか」

余計に怒らせるだろうと警戒していた椿だが、仁は意外にもあっさりと返事をした。

もしかしたら椿がこの家を訪ねてきた瞬間から予想していたのかもしれない。姉がダメなら妹を差し出してくるに違いないと。

「君が姉の代わりに私と結婚して子どもを産む。水無瀬社長もそう了承しているんだな」

「父からは『娘を好きにしてもらってかまわない』と」

忌々しい伝言だ。

椿は自分がひとりの人間ではなく、『みなせ屋』を存続させるための駒であることを深く実感する。

そりゃあお姉ちゃんも逃げるわね、と笑ってしまいたくなるほどに。
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