身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
ああ、自分は浮気をされていたのだと、数秒置いてやっと自覚する。いや、浮気は椿の方だろうか。

椿とはいっこうに交わしてくれない唇へのキスを、この女優とはしている。

この時点で椿の負けはあきらかだった。

父は険しい顔付きで「お前の努力が足りないんじゃないのか」と椿を責め立てる。

「だいたい椿は幼すぎる。なんだあの幼稚な小紋は! あれで京蕗さんの隣に並ぶつもりか」

父はテーブルにダンッと拳を叩きつけると、椿の腕を掴んで立ち上がり廊下へ出た。

「痛っ!」

椿の悲鳴を無視して父は二階へ上がると、菖蒲の部屋に足を踏み入れ、桐箪笥を開ける。

たとう紙に包まれた着物を何枚も取り出し、中を確認していった。

淡藤色や白百合色、朽葉色など、これまで一度も着たことがないような渋めの色を選び、椿の胸元に押しあてる。

「菖蒲のように気高い色を着なさい。化粧や髪型ももっと似せられるだろう、姉妹なんだから」

足の踏み場がないほど着物を散らかしたところで、やっと父は気が済んだのか手を止めた。

そこへ、遅れて帰ってきた母がこの部屋の惨状を見て「なんの騒ぎなの!?」と驚いた声をあげる。

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