身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「椿には気品というものが足りない。だから浮気なんてされるんだ」

父の言葉にズキンと胸が痛み、やるせなく手を握る。

菖蒲には天然の色香というものがあった。椿にはそれがない。

どう背伸びをしても菖蒲と同じにはなれない、そのことを痛いくらいにわかっていた椿だから、父の言葉はダイレクトに胸を抉った。

「お父さん、椿には椿の似合うお色味が――」

フォローしようとする母を、父は鋭い眼差しで制する。

「京蕗さんをたぶらかすくらいの心持ちでいなさい。でないと泥棒猫に持っていかれるぞ!」

父はすっかり怒り心頭し、自室へと閉じこもってしまった。状況がわからずオロオロする母に椿は事情を説明する。

「……気にすることはないわ。ちょっと女遊びしているだけよ、男の人ってそういうところがあるし……。本命は椿なんだから堂々としていていいのよ?」

母は気をしっかり持ってと椿の両肩に手を置く。

その夜、仁から携帯端末にメッセージが届いた。報道はすべてデマであり、信じるなということ。

だが、なぜそんな報道が出回ったのか、あの週刊誌の写真はどうやって撮られたのかなど詳しい説明はなにもなかった。

状況証拠が挙がっている以上、仁の言葉を信じろという方が難しい。
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