身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
そして週末を迎えた。報道は日々過熱していくばかりだが、仁はなんの声明も出さない。

日曜日の昼過ぎ。椿は父に命じられ、白練と藤色がグラデーションになっている上品な小紋に、楊柳の描かれた名古屋帯を締めた。

髪は後頭部で捩じり上げ大人びた卵型のフォルムに。メイクは寒色とゴールドをメインにして強めのアイラインを引く。

普段とは違う、どこか違和感のある椿の姿を見て、母は悲しそうに眉を下げる。

「……似合っているわよ、椿」

空々しいお世辞を口にして、帯をきゅっと持ち上げて整えてくれた。

まるで形の合っていない箱に押し込められているかのようで、椿は息苦しさを覚えた。

「三条さんから立派な枇杷をいただいた。京蕗さんに持っていってくれ。ついでに、大人っぽくなった椿をお見せするんだ」

そう言って父は椿にお使いを頼んだ。母が風呂敷に枇杷を包んで持たせてくれる。

この姿を見て、仁はなんと言うだろう。悪い予感しかしなくて、憂鬱なまま大通りに出てタクシーを捕まえた。



仁のマンションの前には、ぽつぽつと報道陣が立っていた。スクープの影響だろう。

報道陣たちの間を何気ない顔で擦り抜けようとすると、ひとりのリポーターが「京蕗仁さんの関係者ですか?」とマイクを差し出してきた。
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