身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「似合わない」

椿本人も重々理解していたことを端的に告げられる。

どう考えたって椿には似合わない着物だ。顔立ちや佇まいだけでなく、肌の色からしてそぐわないのだ。

椿の肌は父に似て明るく黄色みを帯びていて、反対に菖蒲の肌は母似で透き通るような白色。

健康的で幼げな顔立ちの椿と、儚げで麗しい菖蒲。土台が違うのに同じ色が似合うわけもない。

「その着物は菖蒲のものだな。なにがしたいんだ」

それは……と口ごもる。

「俺は『君は君でいい』と言ったはずだよな」

じわりと目に涙が滲み、かつての仁の言葉が脳裏をよぎった。

『花紅柳緑』――そう言って仁は、ありのままの椿を認めてくれようとしていたのに。

他の女性に仁を奪われたことよりも、姉の真似をすることで気を引こうとした自分自身が惨めで仕方がない。

「とにかく入れ」

仁は椿の肩を抱き、リビングに招き入れた。

椿をソファに座らせて、ライムの香りのする冷えたミネラルウォーターを差し出す。

外が蒸し暑かったせいかもしれないが、頭を冷やせというメッセージにも思えた。
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