身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「で。どういうつもりなんだ」

呆れたように問いただされ、涙が堪え切れなくなる。目頭を拭うと、ブルーとゴールドが混じり合ったアイカラーが指先についてきた。

「父親にそうしろと言われたのか?」

小さく頷いた椿に、仁はふぅと短く息を吐き出す。

仁は父親のせいだと思ったようだが、一番の原因は椿自身の不甲斐なさだろう。

父の命令を拒み切れなかった。菖蒲の真似をすれば愛してもらえるのではないかと、期待しなかったといえば嘘になる。

いたたまれない気分になって、気づけば椿は帯締めを解いていた。

突然着物を脱ぎ始めた椿に、仁は慌てて「おい」と制止する。

「なにも脱げとは――」

「仁さん、抱いてください」

「……は?」

仁の腕を払い、ヤケを起こしたかのように着物の帯を解いていく。

しばらく呆然としていた仁だが、すぐに我に返って「やめるんだ」と椿の両手を掴んだ。

「なにをそんなに焦って――」

「今日なら子どもができるかもしれません」

意志の強い目で仁を見上げると、仁は凍り付いたかのように動かなくなった。

こんな自分でも、子どもができれば仁の心を繋ぎ止められるかもしれない。

この二カ月間、基礎体温を測って記録をつけ、妊娠しやすい日も産出した。今日なら、もしかしたら……。
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