身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
しかし、そこに椿の姿はなく、玄関に走るとすでに草履がなくなっていた。
仁は舌打ちし、すぐさまにコンシェルジュに電話をかける。
「京蕗だ! 着物の女性が通りかかったら引き留めておいてくれ!」
携帯端末を握ったまま、仁自身も家を出る。エレベーターの階数表示が地下であることを確認すると、今度こそ「くそっ」と悪態をついた。
正面玄関に報道陣がいることをわかっていて、あえて地下駐車場から出ようとしたのだろう。
だが十中八九、駐車場の出口も報道陣に待ち伏せされている。
かつて仁が呉服屋の娘と婚約していたことは、少し調べればわかることだ。
当然報道陣も掴んでいるはずで、婚約者がいるにもかかわらず女優と関係を持っていたと、二股疑惑を報じたがっているに違いない。
ここであからさまに着物姿の椿が現れたら、格好の餌食にされる。
「椿――!」
苛立ちのままにエレベーターの下降ボタンを強く押す。
なにより、椿は仁に否定されたと誤解している。どうせ今もショックで泣いているのだろう。こちらの気も知らないで。
「人の話は最後まで聞けよ!」
ひとり愚痴を吐き出して、やってきたエレベーターに飛び乗ると、急ぎ地下駐車場へと向かった。
仁は舌打ちし、すぐさまにコンシェルジュに電話をかける。
「京蕗だ! 着物の女性が通りかかったら引き留めておいてくれ!」
携帯端末を握ったまま、仁自身も家を出る。エレベーターの階数表示が地下であることを確認すると、今度こそ「くそっ」と悪態をついた。
正面玄関に報道陣がいることをわかっていて、あえて地下駐車場から出ようとしたのだろう。
だが十中八九、駐車場の出口も報道陣に待ち伏せされている。
かつて仁が呉服屋の娘と婚約していたことは、少し調べればわかることだ。
当然報道陣も掴んでいるはずで、婚約者がいるにもかかわらず女優と関係を持っていたと、二股疑惑を報じたがっているに違いない。
ここであからさまに着物姿の椿が現れたら、格好の餌食にされる。
「椿――!」
苛立ちのままにエレベーターの下降ボタンを強く押す。
なにより、椿は仁に否定されたと誤解している。どうせ今もショックで泣いているのだろう。こちらの気も知らないで。
「人の話は最後まで聞けよ!」
ひとり愚痴を吐き出して、やってきたエレベーターに飛び乗ると、急ぎ地下駐車場へと向かった。