朔ちゃんはあきらめない
3
結局わたしは、旭さんからの謝罪メッセージへの返信はしなかった。
気にしないでください、だなんて口が裂けても言えない。かと言って叱責する気力もなかったのだ。まぁ、わたしがなにを言っても旭さんはどこ吹く風だろうけど。
返信がないことに気づいてはいるだろうが、あれから旭さんが新たに何かを言ってくることも、アクションを起こすこともなかった。結局わたしは、その程度だったというわけだ。
朔ちゃんのことを呼びつけることこそなかったものの、彼は夜毎わたしのくだらない電話に付き合ってくれている。たまに『まだ予備校にいる』という返事がくるのだが、そのたびに朔ちゃんが通う高校の賢さを思い出していた。
▼
先生に進路のことで呼び出されたエマを教室で待ちながら、昨夜の朔ちゃんとの電話を思い返す。
旭さんの部屋で会ったとき、目の下から頬にかけて広がっていた青あざについて話したのだ。
「そういや、いつの間にか綺麗に治ったね、青あざ」
『あぁ、青あざ?割と長引いたけどな』
「見た時びっくりしたよ。ケンカ?」
『……まぁ、かな?』
なんとも煮え切らない物言いだった。その場では「へぇ。気をつけなよ」とさらりと流したが、朔ちゃんは何か秘密を抱えていそうなのだ。
隠されると暴きたくなるのは人間の性なのか、それともわたしの習性なのか。しかし突っ込んだ話は電話よりも顔を見てしたい。いつなら会えるかなぁ……あ!朔ちゃんはわたしが寂しいと言えば駆けつけてくれるのだった。
そういった人が存在してくれている、という事実だけで心は強く、温かくなる。
「あ、いた!校門にひまりのこと待ってる人がいるよ!」
このまま旭さんとの関係を終えられるかもしれない。エマを待ちながらそんな所にまで思い至った直後、クラスメイトが息を切らしながら教室に入って来た。
「え、わたしのこと?」
「そそ。イケメンだった、めっちゃ」
イケメン……ふと旭さんの顔が浮かんだが、彼の人物は校門でわたしを待っているのだ。前科がある朔ちゃんならまだしも、旭さんがそんなことをするはずも、する理由も見当たらなかった。となれば誰だ……?
「髪、青かった?」
「え、青?普通に黒だったと思うけど……?」
だよね。これで朔ちゃんの可能性はなくなった。いよいよ見当がつかなくなって困惑する。とりあえずエマに手早く、校門で待っている、とメモを書き、机に貼り付ける。念のため、スマホにメッセージも送っておこう。
クラスメイトにお礼を言って、わたしは階段を駆け下りた。ローファーを履きながら昇降口を出て、校門までを急いだ。
息を切らしながら着いたそこに立っていたのは、まさかまさかの旭さんだった。驚きすぎて言葉が出てこない。そんなわたしに気づいた旭さんは「ごめんね」と切なげに微笑んだ。
「な、なんで……」
新堂家には校門で待ち伏せしなきゃいけない家訓でもあって、この兄弟はそれを忠実に守っているんだろうか。特に旭さんなんて、わたしといつでも繋がれるスマホを持ってるじゃない。……返信してなかったわたしが言うセリフじゃあないけど。
「うん。この前のこと、謝りたくて……」
今さら?と思ったが、あの日からまだ1週間も経っていない。わざわざ謝りに来てくれたのだ。話ぐらい聞いてあげてもいいか、とエマに一緒に帰られない旨のメッセージを送り直した。
気にしないでください、だなんて口が裂けても言えない。かと言って叱責する気力もなかったのだ。まぁ、わたしがなにを言っても旭さんはどこ吹く風だろうけど。
返信がないことに気づいてはいるだろうが、あれから旭さんが新たに何かを言ってくることも、アクションを起こすこともなかった。結局わたしは、その程度だったというわけだ。
朔ちゃんのことを呼びつけることこそなかったものの、彼は夜毎わたしのくだらない電話に付き合ってくれている。たまに『まだ予備校にいる』という返事がくるのだが、そのたびに朔ちゃんが通う高校の賢さを思い出していた。
▼
先生に進路のことで呼び出されたエマを教室で待ちながら、昨夜の朔ちゃんとの電話を思い返す。
旭さんの部屋で会ったとき、目の下から頬にかけて広がっていた青あざについて話したのだ。
「そういや、いつの間にか綺麗に治ったね、青あざ」
『あぁ、青あざ?割と長引いたけどな』
「見た時びっくりしたよ。ケンカ?」
『……まぁ、かな?』
なんとも煮え切らない物言いだった。その場では「へぇ。気をつけなよ」とさらりと流したが、朔ちゃんは何か秘密を抱えていそうなのだ。
隠されると暴きたくなるのは人間の性なのか、それともわたしの習性なのか。しかし突っ込んだ話は電話よりも顔を見てしたい。いつなら会えるかなぁ……あ!朔ちゃんはわたしが寂しいと言えば駆けつけてくれるのだった。
そういった人が存在してくれている、という事実だけで心は強く、温かくなる。
「あ、いた!校門にひまりのこと待ってる人がいるよ!」
このまま旭さんとの関係を終えられるかもしれない。エマを待ちながらそんな所にまで思い至った直後、クラスメイトが息を切らしながら教室に入って来た。
「え、わたしのこと?」
「そそ。イケメンだった、めっちゃ」
イケメン……ふと旭さんの顔が浮かんだが、彼の人物は校門でわたしを待っているのだ。前科がある朔ちゃんならまだしも、旭さんがそんなことをするはずも、する理由も見当たらなかった。となれば誰だ……?
「髪、青かった?」
「え、青?普通に黒だったと思うけど……?」
だよね。これで朔ちゃんの可能性はなくなった。いよいよ見当がつかなくなって困惑する。とりあえずエマに手早く、校門で待っている、とメモを書き、机に貼り付ける。念のため、スマホにメッセージも送っておこう。
クラスメイトにお礼を言って、わたしは階段を駆け下りた。ローファーを履きながら昇降口を出て、校門までを急いだ。
息を切らしながら着いたそこに立っていたのは、まさかまさかの旭さんだった。驚きすぎて言葉が出てこない。そんなわたしに気づいた旭さんは「ごめんね」と切なげに微笑んだ。
「な、なんで……」
新堂家には校門で待ち伏せしなきゃいけない家訓でもあって、この兄弟はそれを忠実に守っているんだろうか。特に旭さんなんて、わたしといつでも繋がれるスマホを持ってるじゃない。……返信してなかったわたしが言うセリフじゃあないけど。
「うん。この前のこと、謝りたくて……」
今さら?と思ったが、あの日からまだ1週間も経っていない。わざわざ謝りに来てくれたのだ。話ぐらい聞いてあげてもいいか、とエマに一緒に帰られない旨のメッセージを送り直した。