過保護な次期社長の甘い罠〜はじめてを、奪われました〜
prologue
「おう、デカくなったなぁ、ちびすけ」
高級チョコレートメーカー"ラピス"の最終面接。
何度経験しても慣れないこの緊張を、手のひらに書いた人という文字と一緒になんとか飲み込んで。
ノックをして失礼します、とその部屋に一歩足を踏み入れた瞬間に投げられたその言葉。
驚きに固まっている私にその人は、イタズラが成功した子供みたいな顔で笑った。
「おいちびすけ。オレのこと、忘れたか?」
にっ、と口角を上げ切長の瞳を細めて真っ直ぐに私を見つめるその人を……私は知っている。
脳裏に浮かぶのは彼の高校の時の制服姿。
目の前にいる彼は高校生だった頃の面影は残しているけれど、重ねた年月だとか、積んできた経験に裏打ちされた自信だとかがプラスされて、あの頃よりも格段に男らしく、凛々しくなっていて。
でも、"ちびすけ"と私を呼ぶその声は、記憶の中よりも少し渋みを増したように感じるけれど、揶揄うように弾んだ声色は今も全然変わっていない。
「…………大我…………っ⁉︎」
ーー南条 大我(ナンジョウ タイガ)。
彼は昔近所に住んでいた高校生で、当時小学生だった私にとってヒーローだった人ーー。
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