過保護な次期社長の甘い罠〜はじめてを、奪われました〜

はじめての、都会

「ネクタイ、どっち?」

クォーツストーンのペニンシュラキッチン。

トースターで食パンを焼いている間にベーコンエッグを作っていると、彼がワイシャツの襟元を立てた状態で首元に2つのネクタイを当てながらリビングダイニングに入ってくる。

んー、今日のそのワイシャツには……

「……右、ですね」

「ん」

私の答えを聞くと、彼は左手に持っていたネクタイをダイニングテーブルの椅子の背もたれに掛け、右手に持っていた方をシュッ、シュッ、と器用に締めていく。

私はそれを見ながら半熟に焼けたベーコンエッグとトーストをお皿に乗せていく。


彼のネクタイを選ぶのは、ここへ住むようになってからの私の毎朝の日課だ。

なんでも私が選んだネクタイをつけて行った日、まあ99.9%偶然だろうけど、難攻不落と言われていた企業との商談を成立させたとかで、それ以来彼はこうやって毎朝私にネクタイを選ばせる。

それにしてもこの光景、何度見ても飽きないなあ。

少しつり気味で切れ長の、意志の強そうな奥二重の瞳に、すっと通った鼻筋。

襟足が刈り上げられた焦茶のツーブロックヘアがまたその端正な顔立ちを引き立てていて、ネクタイを締める姿には大人の色気が漂っている。

イケメンのネクタイを締める姿を毎朝拝めるなんて、贅沢過ぎる。
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