過保護な次期社長の甘い罠〜はじめてを、奪われました〜
触れてしまったら、閉じ込めていた気持ちが溢れ出してしまいそう。

だから頭では離れなくちゃと思うのに、身体が言うことを聞いてくれない。

離してくれないことが嬉しいと、心が鳴く。

もう少しこの温もりに包まれていたい、そう思ってしまう。

でも、この温もりは決して私のものじゃないから、僅かに残っている理性を掻き集める。

「……専務、離してください……っ」

泣きそうになりながら、なんとか声を絞り出した。

「………羽衣?」

その声に、専務の腕が一瞬だけ緩む。


その隙に、私は彼の腕から抜け出して、まだ火照りの残る顔とおぼつかない足取りで会議室の片付けに取り掛かろうとした。

ざっと見たところ、机に3つ置かれたペットボトルのミネラルウォーターを下げるだけで良さそうだった。

「……羽衣」


でも専務が私の腕を掴み、それを許さない。

強い力で引かれ、先ほど骨抜きにされた身体はいとも簡単にくるりと彼の方を向いてしまう。

「どうしてオレから逃げる?」

「………っ。」
 
「……なんで、泣きそうな顔をしている?」

顎をくい、と掴み私を覗き込んだ専務の声が、顔が、辛そうに歪んだ。
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