過保護な次期社長の甘い罠〜はじめてを、奪われました〜

募る想いside大我

「専務、そろそろお時間ですが」

ドアをノックする音の後に聞こえてきたのは遥の声。

声を掛けるだけで入ってこないのは、中でオレが羽衣になにをしているか、察しているからだろう。

「……入っていいぞ」

「……いいの?」

入ってきた遥は部屋を見渡し、難しい顔をして腕を組み机に浅く腰掛けているオレしかいないのを認めると、

「あれ?羽衣ちゃんは?」

開口一番そう聞く。

「……逃げられた」

「え、何やってんの。………どうせがっついたんでしょ」

「うるせえ」

「ははは、図星?」

ヤツのメガネの奥の瞳が面白そうに弧を描くが、事実だから否定は出来ない。

「……あいつ、やっぱなんか誤解してやがる」

「じゃあとしくんの言った通り?」

「……ああ」

後頭部をぐしゃ、と掻き、「くそ……」と溢すと、

「その様子じゃ、誤解は解けなかったみたいだね?ほんと大我は普段何でもそつなくこなすくせに、羽衣ちゃんのこととなると不器用だよねえ、昔から」

そう言って遥がけらけら笑うから、「ちっ、黙れ」と舌打ちをして睨む。

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