過保護な次期社長の甘い罠〜はじめてを、奪われました〜
その日は母親の帰宅が遅れていたようで、先ほどから急に強くなり出した風が窓ガラスをガタガタ揺らす音だとか、何かが飛んで来てぶつかる音だとか、そういうのが1人だと無性に怖くなっちまったらしい。

すっ飛んで行ったオレにしがみ付き震えて泣く羽衣の背中をさすりながらあの時抱いた気持ちを今言葉にするなら、庇護欲だとかそういう類のものだったと思う。

事情は違うがオレと同じ母子家庭で、しかも羽衣は5歳の時から母1人子1人の生活を送っていると聞いた。

鍵っ子だから1人で留守番は慣れていると言っていたが、学校から帰って来て親にお帰りと迎えられない寂しさはオレも幼い頃経験しているから分かっているつもりだ。

だからそんな羽衣を、せめてオレは甘やかしてやりたい、出来るだけ寂しい思いはさせないでやりたい、そういう思いから必要以上に羽衣に構ってしまっていた部分もあった。


"食うか?"


羽衣がようやく落ち着いた頃にペタンコのスクールバッグから取り出した長方形の箱。

親父からたまに送られて来るラピスのチョコ。

"お前は後継ぎだということを忘れるな"

母親の方について行ったオレに掛けられているプレッシャーのように感じて、一度も食ったことはなかった。

両親は円満離婚とは言えなかったから、流石に捨てるまではしなかったがおふくろもそれを放置。

いつだったか家に来た遥がそれを見つけて、やったら気に入ったようだったからそれ以来届いたチョコは遥へ渡っていた。
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