過保護な次期社長の甘い罠〜はじめてを、奪われました〜
そして就職して2年目の夏。盆の休みに帰省した時、何年か振りに羽衣を見掛けた。

昔から整った可愛らしい顔立ちをしていたが、高校生になった羽衣はとても綺麗になっていて。

一瞬息を飲むくらいだった。


東京に出て羽衣と離れてから、オレはふとした瞬間に羽衣のことを思い出しちまうことが多くて。

例えば、夏の到来を告げる風を感じた時には、あいつに出会った夏の日のことを。

例えば、セミ取りしている子供を見た時には、強くなりたいと一生懸命オレの言う通りに虫を追いかけ回して捕まえていたあいつのことを。

例えば、市場調査で店舗周りをした際、うちのチョコを嬉しそうに買って行く女性客を見た時には、あいつがはじめてラピスのチョコを食った時の、幸せそうな顔を。

だからオレにとっての羽衣がどんな存在だったかなんてことには薄々気づいてはいたが、気付かない振りをしていた。


声を掛けようと思ってよくよく見れば羽衣の隣には男がいて。

あいつも彼氏が出来るような歳になったんだな、まあ当たり前か、高校生だしな、なんて自嘲した時に胸に湧き上がってきた黒い感情に気付き、ああ、やっぱりオレにとって羽衣は妹みたいな存在なんかじゃなく、1人の女として大切な存在だったんだと認めざるを得なかった。

だが今更何を言う権利もないし、あいつにとってオレはきっともう過去の人間だ。あいつが今幸せならそれでいい。
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