過保護な次期社長の甘い罠〜はじめてを、奪われました〜
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私は高校卒業後、そのまま京都の大学に進学して学生寮に入った。
だけどどうしても行きたい会社があって、就職活動は東京を中心にしていた。
筆記試験や面接がある時は日帰り、または何日か続く場合はその都度手頃なビジネスホテルを取って上京。
本命の会社だけでなく、同じ業界で何社も受けた。
行きたい会社に行ける人間なんて、ほんの一握りだけだから。
でもその本命の会社がまさか大我のお父さんの会社で、しかも大我がそこで専務をしているなんて思ってもみなかった。
再会してはじめて知ったこと。
大我はもともと東京の人だったらしい。
それがご両親の離婚で、お母さんの実家がある私のいる町へ越してきたのが大我が中学1年の時。
名字も母方の姓である南条と名乗っていたし、だから大我が高級チョコレートメーカー"ラピス"社長の八雲 征司(ヤクモ セイジ)の息子だということは、地元の人たちには全く知られていなかった。
大学卒業後は"ラピス"に入社していずれは会社を継ぐことが、お母さんの方へついていく条件だったそうだ。
ちなみに最終面接で『他にも内定出てるなら早急に断っとけよ』と言われた時。
相変わらず強引な大我につい対抗して『私に選択権は……⁉︎』なんて言ってみたけれど、選択権もなにも実は私の本命はここで、ここから内定がもらえるなら喜んで入社する以外の選択肢は端からなかった。