過保護な次期社長の甘い罠〜はじめてを、奪われました〜

奪還

一筋流れた涙をそっと拭って坂崎さんに今日の夜OKですと返信をして、パン、と両頬を叩き、気持ちを切り替える。

受付へ急ぎ足で戻っている途中でまたスマホがポケットでぶるっと震えたけど、後で見ることにして私は渚さんの元へ戻った。


受付業務終了まで1時間を切ってしまえば来客もそんなに多くはなく。

ともすればさっきのことが頭を過ぎりそうになってしまうけれど、私が不在時に相良さんが受付に降りて来ていたらしく、渚さんが頬を赤らめながらすごく嬉しそうにその話をしてくれたから気が紛れてとても有り難かった。

その反面会議室のあの状況を仕組んだのは相良さんのくせに、人の気も知らないで自分は渚さんとなに楽しんでるんだ、と怒りが湧かないでもなかったけれど、渚さんの綻んだ顔を見ていたらその怒りも引っ込んだ。

そうしてなんとか定時を迎え、今日は予定があるといそいそと着替えとメイク直しを終えた渚さんと更衣室で別れた後、スマホをチェックするとなんと坂崎さんから仕事の終わる頃会社まで車で迎えに行くというメッセージが届いていた。

今日は火曜日だから美容院はお休みらしい。

すぐ向かいます!と慌てて返信をしてエントランスまで急ぐ。

「花里さん!」

いつも座っている受付を通り過ぎ、すっかり日の落ちた外へ出ようとしたところで後ろから誰かに呼び止められた。
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