過保護な次期社長の甘い罠〜はじめてを、奪われました〜
「……相良さん?」

「良かった、間に合った。帰る前にちょっといいですか?」

身体は入口を向いたまま顔だけ振り返れば、私を呼び止めたのは相良さんだった。

「あ、すみません、これからちょっと……。急用ですか?」

「……うーん、ある意味急用、かな……」

会社の前で待ってる、坂崎さんからそうメッセージが送られて来ていたのは15分ほど前で。

坂崎さんをすでにお待たせしてしまっている手前急ぎたいところだけど、そう呟いて困ったように眉を下げている相良さんを前に明日じゃダメでしょうかとは言いづらい……。

「あー……、じゃあ外にお待たせしてしまっている人がいるので、一言お断りしてきてもいいですか?」

「……誰かと待ち合わせ?」

「はい、そうなんで……」

す、と言い切る前に自動ドアがウィーンと開き、「羽衣坊、終わった?」とタイミングよく坂崎さんが入って来た。

「あっ、坂崎さんお待たせしちゃってすみません!あの、もう少しだけ待ってて頂いても……」

「……羽衣坊……?坂崎……?」

これまた最後まで言い切る前に、今度は怪訝そうに呟く相良さんの声に遮られてしまった。
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