過保護な次期社長の甘い罠〜はじめてを、奪われました〜
「……羽衣坊、今日連れて行きたいところあるんだけど、いい?」 

たぶん薄々気づいているのにさっきのことに触れずにそう聞いてくれる坂崎さんは優しい。

「……あ、はい、お任せします……」

車に揺られてキラキラ輝く街の明かりをボーッと眺めていた私は、坂崎さんの方へ視線を向けそう答えた。


そうして車を20分ほど走らせて連れてきてくれたのは、木の温もりが感じられる外観の創作和食居酒屋。

店内も和モダンという言葉がぴったりで、とても雰囲気が良い。

どうやら坂崎さんはわざわざ予約してくれていたらしく、私たちは個室のテーブル席へと案内された。

向かい合って座ると、「まずは好きなもん選びな」とメニューを渡してくれ、私の苦手な食べ物を確認しながら、私が食べたいと言ったものと一緒に坂崎さんおすすめの料理も注文してくれた。

そして先に運ばれてきたビールとシャンディガフで乾杯する。

今頃、大我と桃ちゃんも一緒に食事でもしているんだろうか……。

シュワシュワする泡を眺めながら楽しそうに笑い合う2人の姿を想像してしまう。

……ダメダメ。さっきのことはもう忘れて、今は坂崎さんとの食事を楽しもう。

私は頭にこびり付いて離れない2人の姿を追い払うように、シャンディガフをゴクゴクと喉に流し込んだ。
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