過保護な次期社長の甘い罠〜はじめてを、奪われました〜
「お前、そんなに大事なら不安にさせてんじゃねーよ。まあせいぜい逃げられないようにしっかり繋いどくんだな」

「ああ、言われなくても。竜、てめえもう2度と羽衣にちょっかい出すんじゃねえぞ?」

呆れたように言う坂崎さんに、最後まで凄む大我。

「さあ?それは大我次第かな」

やっぱりそんな大我をものともせず、くすくすいたずらっぽく笑う坂崎さんは、かなりの強心臓の持ち主かもしれない。

「ちっ」

舌打ちを1つ落として私を解放した大我は、壁のハンガーに掛かっていた私のパイピングコートをふわっと羽織らせて私のバッグを掴み、今度は私の手を取って個室から出て行こうとする。

「……あっ、あのっ!さっきのあれは、冗談、だったんですよね………?」

大我に手を引かれながら、私は振り返って坂崎さんに問う。

"……羽衣坊、その相手、オレじゃダメ?"

"オレが、大我のこと忘れさせてやる。だから、オレと付き合わない?"

あのセリフは、あの熱のこもった眼差しは、大我がここへ来ることを知っていた坂崎さんのちょっとしたお芝居、みたいなものだったんだよね?


「………そう思う?」


ニヤリ。浮かべられたその意味深な笑顔は大我の手によって乱暴に閉められた引き戸の向こうに消えてしまい、結局坂崎さんの真意は分からずじまいだった。

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