過保護な次期社長の甘い罠〜はじめてを、奪われました〜

「よう、久しぶりだな。あ、先に言っておく。お前、採用な。もし他にも内定出てんなら早急に断っとけよ」

まだ状況がうまく飲み込めず、まさに鳩が豆鉄砲を食ったような顔の私にイタズラな笑顔を浮かべたまま大我はそう告げる。

「……えっ?えっ⁉︎私まだ自己紹介も何にもしてないのに……⁉︎」

最終面接とはいえ、突っ立ったままで自己紹介もせず志望動機も伝えず、知り合いとはいえ何年かぶりに再会した7歳も年上の彼の名前をただ呼び捨てただけの私を採用なんて、本気なのだろうか。

それにどうしてここに大我が………⁉︎

でもそんな私の心の内は見透かされていたらしい。

「花里 羽衣(ハナサト ウイ)。自己紹介なんてしなくてもお前のことは知っているし、うちの場合最終まで来れた奴はよっぽどのことがない限り大体合格だ」

にっ、と口角を持ち上げて、懐かしいあの顔で不敵に笑う。

ーーあの当時はちびすけとばかり呼ばれていて、彼からは一度も呼ばれることのなかった私の名前。

その顔に、何年か越しに呼ばれた自分の名前に、不覚にも胸がとくん、と音を立てた。
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