過保護な次期社長の甘い罠〜はじめてを、奪われました〜
「……あ、ありがとう……」

蚊の鳴くような声でお礼を告げると、

「お前も泣いてばっかいねーでもっと強くなれ。そんなんだから舐められんだぞ?」

制服の裾でゴシゴシと涙を拭ってくれた。

その仕草が乱暴なのにどこか優しくて。

だから私は思わず聞いてしまったのかもしれない。

「……どうしたらつよくなれる?」

「……強くなりたいか?」

顔を覆っていた制服が離れると、切長の瞳が真っ直ぐに私を射抜く。

「うん、おにいちゃんたちみたいにつよくなりたい……!」

「お前、名前は?」

「はなさと うい!」

「よし、ちびすけ。オレがお前を強くしてやる」

にっ、と笑ったその顔はやっぱり優しくて。

「名前、聞いた意味ないじゃんね」

そう言って苦い笑いを溢して私に目配せする遥くんも、やっぱり優しかった。

他校とのケンカ沙汰もしょっちゅうでいわゆる不良と呼ばれていた彼らだけど、私のことを助けてくれたこの2人が、私はちっとも怖くはなかった。


夏の到来を告げる白南風(しらはえ)がそよそよと木々を揺らす、そんな季節の出来事だった。
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