過保護な次期社長の甘い罠〜はじめてを、奪われました〜
彼も私のおてんば具合をよく知っている。

あの事件の後、私を見掛けるとよく声を掛けてくれるようになったから。

最も、大我と一緒にいる時はその度に彼の背中に隠されていたけれど。

当時から"羽衣坊"という変なあだ名で呼ぶのはこの人だけだった。

「まさかこんなところで会うとはね。……で、前回来たのが7月、と……。今日はカラーとカットね。どのくらい切る?」

「あ、伸びて来た分を整える感じで……」

私の髪を触りながら急にお仕事モードに入った坂崎さん。

「花里さんは肩くらいまでのボブも似合いそうだけどね」

私がお客さんだからか、彼は羽衣坊じゃなく花里さんと呼ぶ。彼の正体が判明してしまえばなんだかその呼ばれ方がくすぐったい。

「そうですか?今までそんなに短くしたことなくて」

肩くらいのところで私の髪を挟んで鏡越しに見る。

「ま、切りたくなったら任せてよ」

そう言ってイタズラっぽく笑った。

「ふふ、はい」

「カラーはこの感じなら根元だけでも行けそうだけど、どうする?」

「うーん、カラーは気分転換にちょっと変えたいかもです」

「じゃあ花里さんに似合いそうなカラーある」

ちょっと待ってて、そう言って彼は雑誌を持ってきてこんな感じ、どう?と広げて見せてくれる。
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