過保護な次期社長の甘い罠〜はじめてを、奪われました〜

幸い彼らは私には気づいていなかったため、慌ててくるりと踵を返して来た道を戻る。

頭を思い切り殴られたような衝撃に、足元がふらつく。

視界が揺らぐ。でも歯を食いしばってそれを堪えた。

どこへ向かっているのか、どこへ向かえばいいのかも分からないけれど、頑張って頑張って足を動かす。

早く、早く、もっと早く。

だって、あの光景から一刻も早く遠ざかりたい。

でも実際はきっとそんなに進んでなくて。

立ち止まった場所は、ついさっきまでいた坂崎さんの美容院の前。

ぎゅっと目を瞑ると浮かんでくるのはあの光景。

結局どんなに離れようとしても、瞼に焼き付いたあの光景は消えないーー。



「………羽衣坊?」




「………坂崎さん」


呼ばれた声に目を開けると、お客様をお見送りした後だろうか、坂崎さんがちょうど店の外に出ていた。


「……どうした?」


きっと私は酷い顔をしていたに違いない。

その気遣うような優しい眼差しと頭に添えられた温かい手に、ついに堪えていた涙が溢れた。


「……坂崎さん……どうしよう……」




両手で顔を覆ってしゃがみ込む。


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