過保護な次期社長の甘い罠〜はじめてを、奪われました〜
「羽衣、ネクタイ、どっち?」
「……うーん、その2択なら左、ですね」
「ん」
毎朝恒例のネクタイ選び。
私の答えを聞くと、彼は右手に持っていたネクタイをダイニングテーブルの椅子の背もたれに掛け、左手に持っていた方をシュッ、シュッ、と器用に締めていく。
それを敢えて視界に入れないように私は朝食の準備をする。
締め終わると、大我がキッチンに立つ私に近寄って来た。
背後から手が伸びて来る気配を感じ、私はするりとそこから移動してダイニングテーブルに朝食を運ぶ。
「早く食べちゃいますよー」
ちょっと不服そうな大我の顔には気付かないふり。
ーーーーあの日を境に、私は大我に触れられることを意図的に避けている。
それ以外は今まで通り普通に出来ている、と思う、たぶん。
過保護な兄と妹みたいな関係。
それが私たちの、今まで通り。
桃ちゃんのことは、大我が何も言わないから私も聞かない。
今はそれでいい、今はまだーーーー。