シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する
 何を考えているか分からない金多くんよりも、真っ直ぐわたしだけを求めてくれるギンを信じたい。

 ……ただ。


「……でも、信じてるとは言わないんだね」

「っ!?」

 言葉のわずかな違いを見抜かれてしまう。


 そう、自信を持って信じてるとは言いたくても言えなかった。

「……言えるほど、彼のことを知らないだけだもの」

 悔し紛れに聞こえそうだと思ったけど、それが事実でもある。


 ギンのことをもっと知れば、きっと信じられる。

 どうしてかは自分でも分からないけど、そんな確信がわたしの中にあった。


「そう……そこまで言うなら、ひとつアドバイスをしてあげるよ」

「アドバイス?」

「ああ、時計塔を上るといい。そこに行けば、兄さんのことをもっと知れるはずだよ?」

「……」

 うっすらと微笑む金多くんにはやっぱり不信感を覚える。


 好意を持っていると口にしておきながら、拒絶されてもまるで(こた)えた様子がない。

 やっぱり、わたしのことが気になってるっていうのはウソだ。

 それだけはハッキリと分かった。


 そして、そんなウソを笑顔で平然と言う金多くん。

 照れてる演技までして……。


 目的は分からなくても、信じることなんて出来るわけがない。

 そんな彼のアドバイス。

 素直に聞いていいものなのか……。
< 136 / 289 >

この作品をシェア

pagetop