シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する
 この階段の先に何があるのか。

 それをわたしが見て良いものなのかどうか。


 ……ギンは来るなと言っていた。

 でも、わたしはもっと彼のことが知りたい。

 金多くんの話なんて、ありえないと自信を持ってはねのけたい。


 だから、わたしは――。

「行こう」

 一歩、足を踏み出した。


 一度踏み出してしまえばあとはその勢いに乗るだけ。

 一歩、また一歩と進むたびに迷いを消していく。


 螺旋階段の幅はそこそこ広めに作られているけど、手すりなどはついてない。

 わたしは落ちない様に壁に手をつきながら進んだ。


 ゆっくり揺れる振り子が近づく。

 そしてさらに上ると、振り子の根本がある辺りで螺旋階段が終わる。

 2階部分、と言って良いんだろうか?

 長い螺旋階段を上った先は機械室とでも言うような場所だった。


 いくつもの歯車が見える機械。

 一定のリズムで動いているそれが時計の心臓部だと分かる。


 それとは別に、3階部分に行けるらしい階段がある。

 その前に立ち、軽く深呼吸をした。

 きっと、この先にギンの秘密がある。

 緊張から少ししり込みするけれど、今更怖気づくなんてことはしない。

 螺旋階段を上る時点で、覚悟は決めたから。


 でも、何があるのかは分からないため慎重に進む。

 そっと一段一段上っていき、3階部分へ向かった。
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